東京地方裁判所 昭和53年(ワ)622号 判決
一 原告が本件実用新案権を有すること、本件考案の実用新案登録出願の願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであること、イ号物件が別紙第一物件目録記載のとおりであり、被告がイ号物件を業として製造、販売していることは、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属するか否かを検討する。
(一) まず、当事者間に争いのない前記実用新案登録請求の範囲の記載に成立に争いのない甲第一号証(本件実用新案登録証及び実用新案公報)を総合すると、本件考案は、次の構成要件に区分、説明することができる。
1 数個の空隙溝を有する懸吊板が台車の器枠に取着してあること。
2 一対の部材を鋲着して、上部に外向の係合片と途中部を外拡して形成した間隙とを有し及び下部に内向の係合片を隙間を残して相対せしめたホルダーを形成していること。
3 フイルムの両端に支持枠を貼着していること。
4 ダンボール印刷用ゴム印を貼付したフイルム懸吊車であること。
そして、前顕甲第一号証に本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、本件考案は、右構成要件1ないし4を具備することにより、
(1) フイルムを整然と良好な状態で収納、保管することができるので、使用時にフイルムを探し出すのが容易であり、フイルムを損傷することもない。
(2) フイルムを場所的に移動することができる。すなわち、
(イ) 台車の器枠に取着固定された懸吊板の空隙溝に挿入されたホルダーに懸架されたフイルムを、台車ごと場所的に移動することができる。
(ロ) 台車を移動せずに、フイルムを懸架したホルダーを懸吊板の空隙溝から抜き出し、ホルダーごと場所的に移動する(持ち運ぶ)ことができる。
という作用効果を奏することが認められる。
(二) 次に、別紙第一物件目録の記載にイ号物件の写真であることに争いのない甲第三号証の一、二、イ号物件であることに争いのない検甲第一号証を総合すると、
イ号物件は、次の構成からなること、すなわち、
2´ 四角型に形成され内部空洞を有する管の一側面の中央部を長手方向に切開した開口部を有する任意数のホルダーを形成し、その開口部に相対する管の側面を台車の器枠に取着してあること。
3´ フイルムの両端に支持枠を貼着していること。
4´ ダンボール印刷用ゴム印を貼付したフイルムハンガーであること。
であり、
イ号物件は、右構成2´ないし4´により、
(1)´ フイルムを整然と良好な状態で収納、保管することができるので、使用時にフイルムを探し出すのが容易であり、フイルムを損傷することもない。
(2)´ フイルムを場所的に移動することができる。すなわち、
(イ)´ 台車の器枠に取着されたホルダーに懸架されたフイルムを、台車ごと場所的に移動することができる。
という作用効果を奏することが認められる。
(三) しかして、前記二及び三認定の事実によれば、イ号物件の構成3´、4´が本件考案の構成要件3、4をそれぞれ充足し、イ号物件の作用効果(1)´、(2)´(イ)´が本件考案の作用効果(1)、(2)(イ)とそれぞれ一致するとはいうものの、原告も自認するとおり、イ号物件が本件考案の構成要件1「数個の空隙溝を有する懸吊板が台車の器枠に取着してあること。」にいう懸吊板を欠如していることが明らかであり、したがつて、イ号物件が本件考案の構成要件1を充足しないことが明らかである。
してみれば、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属さないというべきである。原告は、
本件考案が、ホルダー5を直接台車3の器枠4に取着固定せず、まず空隙溝2を有する懸吊板1を台車3の器枠4に取着固定し、この懸吊板1の空隙溝2にホルダー5上部の係合片6を自由に挿入できるように構成したものであるのに対し、イ号物件は、懸吊板を欠如し、ホルダー4を直接台車6の器枠7に取着固定した構成のものであるが、本件考案の構成をこのように置換えても、イ号物件は、本件考案の作用効果のうち比較的重要でない作用効果(2)(ロ)を有しないだけで、本件考案最大の作用効果(1)と同一の作用効果(1)´、及び作用効果(2)(イ)と同一の作用効果(2)´(イ)´を有するから、イ号物件はいわば単なる設計変更か、本件考案と均等の範囲にあるというべきである。
旨主張するが、イ号物件は、そもそも本件考案の構成要件1にいう懸吊板に置換すべき構成を欠如し、したがつて構成要件1に置換すべき要素を全く備えていないのみならず、イ号物件は、原告も自認するとおり、本件考案の作用効果(2)(ロ)を有していないから、作用効果が同一であるともいえないのであつて、原告の右均等の主張は、到底採用の限りでないし、単なる設計変更にとどまるとの主張も採用できないこと叙上説明から明らかである。
三 よつて、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属することを前提とする原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとする。
〔編註〕本件に関する目録は左のとおりである。
第一物件目録
(一) 図面の簡単な説明
第一図は正面図・第二図は側面図・第三図は第一図記載中の、四角型に形成され内部空洞2を有する管1の一側面の中央部を長手方向に切開した開口部3を有するホルダー4の部分図・第四図は立体図
(二) 構造
任意数の四角型に形成され内部空洞2を有する管1の一側面の中央部を長手方向に切開した開口部3を有するホルダー4を形成し、その相対する管の側面5を台車6の器枠7に取着し、フイルム8の両端に支持枠9・9″を貼着してなるダンボール印刷用ゴム印を貼付したフイルムハンガー
<省略>
第二物件目録
(1) 構成
器枠7と、この器枠7の下端面に、各垂直片2の上端部を取着した複数個のL字型板<省略>とで構成され、各L字型板<省略>は同一方向かつ平行に取着され、かつL字型板<省略>の水平片3の先端部と隣接したL字型板の垂直片2の下端部との間に適当な空隙4が設けられていることを特徴とするフイルムハンガー
(2) 図面の簡単な説明
第1図はフイルムハンガーの正面図、第2図はL字型板の部分斜視図。1L字型板、2L字型板の垂直片、3L字型板の水平片、4空隙、5フイルム、6フイルム支持枠、7器枠
<省略>